【特集】 無料の経済圏が作り出す変化
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前回に引き続きフリーに関する話題です。別な本でスティーブ・ジョブズの言葉をまとめた書籍があるのですが、Appleは今の新聞、メディアといった業界とは別でコンピュータ業界の低価格戦略に巻き込まれた歴史があるのですが、そこからの脱出方法、差別化についても書かれています。今回はこれらをまとめて今そして今後起こるであろうフリーが作り出す経済圏が起こす変化とそこからいかにマネタイズをするかについてまとめてみたいと思います。
iMacが求めたもの
ジョブズは一度Appleを追い出された後、1997年に暫定CEOとして復帰しました。当時のコンピュータ業界はWindows95が主流になっており、Macはマニアックなユーザだけが使うものになっていました。そしてWindowsの搭載されたPCはどれも似たようなデザインでベージュの筐体に収まっていました。低価格戦略が横行し、安い部品を使っていかに低価格でマシンが提供できるかばかりこだわっていました。
iMacはそんな中で市場に投入されました。カラフルな色調、整ったデザインが評判を呼び、世界中で熱狂的に取り上げられました。この事実についてスティーブジョブズは次のように語っています。
“製品の価格が下がり、コンシューマ市場が花開いてくると、デザインやファッションと言った要素が大事になってくる”
フリーの中でもHDDやCPU、ネットワークと言ったハードウェアのコストが殆ど無視できるほどに安くなってきたと書かれています。同様にDVDやCDをリッピングしてコピーするコストや、そのコピーしたファイルをネット上(自分のFTPサーバやファイル共有サービス、Youtubeなど)に流すコストが殆ど0になっているために不正コピーのような問題が出てくるようになっています。Appleはそのコストが下がってしまう問題をデザインやイノベーション(変革)によって解決しようと考えています。その結果としてiMacやiPod、iPhoneといった革新的な商品を生み出すに至っています。
# この言葉のエピソードとして、それまでアメリカ人が平均1本しか所有していなかった時計がG-SHOCKの登場によって平均7本になったと語っています。iPodやiPhone、Mac OSXについても同様で、年ごとに出る新機種を買い足したり、デスクトップとノートなど用途に応じて使い分ける人が多いように見えます。
この低価格になる問題に対する答えは幾つかあります。順番にそれを見ていきます。
貴重なリソースを高価格化
これはアーティストで見られる動きになっているとのこと。かつてラジオでは生バンド演奏が基本だったことは前回書きましたが、レコード、CDの登場によって“CDを販売するためにコンサートで名前を広める”のが一般的になってきました。が、CDやレコードがフリーに飲まれてしまったことで、逆にオンラインに横行する音楽を撒き餌にしてコンサートや会員制のサイトを通じてプレミアムコンテンツを提供するという活動が行われています。特にコンサートは現状では最も貴重である“時間”や“体験”を売り物にしているのでチケットがプレミアム化しやすいのが特徴です。アメリカ、ヨーロッパ、ワールドツアーを行うアーティストが増えているのがそうした事情に起因しています。
ネットビジネスにおいて同様のモデルが見られるものとしてはCerevoやiPhone、ポメラ、Chumbyのようなハードウェアを用いたモデルです。専用の機器が必要な場合デジタルコピーに比べて模倣コストは圧倒的に高くなります。ハードウェアの開発費用があるためにメーカのリスクは高くなりますが、ヒットすれば利益は高くなります。
垂直統合
これまでビジネスの場では作業を水平に分断し、効率化を図るのが一般的でした。例えばマイクロソフトはソフトウェアは作りますが、PC本体は作っていません。ハードウェアベンダーがハードウェアを生産し、そこにOEMとしてWindowsを搭載しました。このモデルは互いにメリットがあり、研究開発費を抑えられますので普及時にはとても有効です。が、PC自体の普及が進み、ソフトウェアが違法コピーされる現状では効果が薄れつつあります。そこで考えられるのが垂直モデルです。最も容易なのはマイクロソフトで、もしマイクロソフトがハードウェアを開発して提供したとすれば(メーカー自体は買収したとして)業界の構図が変わる可能性があります。
同様にAppleで見るiTunesのモデルもあります。ハードウェア、OS、ソフトウェア(iTunes)、iPod/iPhoneといったデジタルに関わるガジェットを全て提供しています。さらにiTunes内で販売される音楽データ、テレビ、映画のデータも全て提供しています。これを全て自前で行うのは非常にリスクとコストがかかりますが、模倣コストは決して低くありません。
手軽にできる例としては、受託開発会社が自社のWebサービスを提供する、何らかのフリーウェアまたはオープンソース・ソフトウェアを開発しそのカスタマイズ案件で利益を上げると言ったモデルも考えられます。自社のサービスを持ち、それを運用することによって新しいニーズを掴んだり、他社向けの開発に活かすと言った方法が考えられます。
将来性を判断する
これはマイクロソフトが中国で行った手法です。不正コピーが問題化されていた中国の市場で、マイクロソフトはあまり積極的な不正撲滅活動は行いませんでした。アクティベーションの仕組みを含め、完璧と言えるレベルでやろうと思えばできていたはずです。が、マイクロソフトではあえて放置する戦略をとりました。それは中国の将来的な市場性を考え、不正コピーであったとしても広く普及することによってバージョンアップの際にはお金を出してくれる(個人が豊かになることによって不正コピーは徐々に減るという判断)と考えたためです。そしてWindows XP以降、不正コピーの率というのは確かに減っている模様です。これは市場が大きい場合にしか適用できないと思われますが、積極的無料配布とも違うコントロールされたマーケティング手法と言えるかも知れません。
完全ネット化
完全にネット化、オンライン化してしまうという手段もあります。これはオンラインRPGに見られる手法です。ローカルコンピュータ上にインストールするタイプのゲームでは不正コピーが止められないため、オンライン化することによってコントロールします。オンラインゲームの市場はアジアを中心に大きくなっており、その中でやり取りされる金銭は100億ドル以上と言われています(ゲーム自体はもちろんバーチャルギフトも含め)。日本でも幾つかオンラインゲームが出ていますが、その中毒性の高さによって市場規模の大きさな伺い知れます。
フリーの経済圏から収益をあげるには
今年、来年以降フリーサービスがますます普及するのは自明です。現状無料だったものが有料化した場合、トラフィックは大幅に下がることが予測されます。トラフィックコストが高価である場合はコスト削減につながりますが、フリーである場合は単純なトラフィックの減少でしかありません。トラフィックが下がった場合、広告をメインビジネスにしていると売上が下がることが想定されます。有料会員の数と広告費用のバランスによって、有料化するか否かを判断する必要があります。が、現時点でのWebの状況を見る限り有料化にメリットがあると考えられてはいないようです。
他社と異なるビジネスモデル
完全なフリーではありませんが、iTunesでの音楽販売が99セントという破格の値段で行われたのは、Appleが音楽販売を通じて収益をあげていないためです。その殆どが契約したレーベルにいっています。Appleにとって音楽の販売とはiPodの販売増に繋がる行為であり音楽を聴くためにはiPodが必要というビジネスメリットがあったため、この戦略をとりました。音楽販売自体を主目的としたライバルではこの戦略はとることができません。この構図はGoogleマップが無料公開されたことによって高性能な地図を有料提供していた他社が痛手を被った時に似ています。つまり他社と異なる収益構造をもつことによって、他社が有料でないといけない部分を無料化し、別な部分で収益をあげるモデルが組めるようになります。
有料と無料のバランス
ジョブズの言葉として“あなたは最低賃金以下で働いていることに気がつくだろう”というものがあります。これはネット上にある不正なMP3ファイルを探してダウンロードし、それによって犯罪を犯すリスク、半端なデータ(メタデータ)と品質、何よりも探す手間を考えると15分/曲かかったとして4曲/時間かかる計算になります(実際にはもっと短時間だと思われますが)。いずれにせよそうして時間を費やしたことによる無料と、iTunesからダウンロード(99セント×4=3.96ドル)する有料とのバランスを考えると、購入した方がメリットが大きいと言うのがジョブズの考えです。1曲2ドル程度だった場合、計算が変わってきますが99セントという安価がフックになり、ユーザは不正ダウンロードからiTunesに流れたと言われています。この事実は有料と無料のバランスの大切さを意味しており、たとえ有料であったとしてもそれに見合った価格であればユーザを引きつけられる可能性があることです。とは言えネットサービスの場合、無料と1円の境はとても大きいのが実情ですので、自分たちのサービスなりに解釈する必要があります。
5%の顧客を得る
前回にも出たように、Webサービスの有料モデルで課金サービスを利用しているユーザはわずか5%というのが実情です。100万ユーザだった場合5万ユーザを獲得できる程度です。サービスとして有名で盛り上がっているニコニコ動画ですら3.5%なので、月間100万ユーザいるとして3.5万ユーザから300円ずつ徴収するサービスの場合で1,000万程度の売上になります(最新のニュースでは4%に改善しています)。これでサービスを維持できるレベルを考えるのが重要です。また、完全にビジネス向けのサービスであるならば有料化しやすいので、1万ユーザ程度で月額5,000円程度、月間売上5,000万円のビジネスとして想定することも可能です。
- ニコニコ動画、有料会員が60万人突破–ID登録者は1500万人に
- http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20405296,00.htm
時間を売る
オンラインゲームでのアイテム販売を行っている企業の場合、そのアイテムは武器や防具といった冒険に役立つものではなく、町から町を移動したり、移動速度を速めるようなものが多いそうです。つまり資本さえあればゲームを簡単にしてしまうという訳ではなく、あくまでもゲームのバランスを保ちつつ、時間がない人でもお金を払うことで素早く楽しめるようにするという仕組みです。若者はお金と時間のバランスにおいて時間が余っている傾向が強いために長時間ゲームを行う余裕があります。社会人や年長者になると逆に時間が足りなくなるために少しのお金を払うことでスピードアップできるならとアイテムを購入するようになります。そうした年代によって異なるニーズを正しく掴み、かつ誰でもゲームを楽しいと感じられるモデルが重要です。
リアルとの結合
私の持論としてネットから離れれば離れるほど金鉱があると思っています。逆にネットに潜り込めば潜り込むほど、お金の匂いは消えていきます。インターネット上ではリソースが潤沢に存在し、かつその潤沢さを意識することは殆どないため、金銭的感覚から解放されてしまうためかも知れません。インターネットの最先端をいく企業が広告という旧来型のビジネス形態に落ち着くのも、一番リアルに近いからかも知れません。そのように考えると携帯電話のような持ち運びできるガジェットはリアルとネットとを繋ぐもっとも良いデバイスと言うことになります。モバイルにこだわらなくとも、リアルにより近づける(介護や生活、学業、旅行、飲食など)ネットビジネスほど収益構造がリアルに近いものになり、それでいてコストがオンライン化によって低く抑えられるのでビジネス化しやすいと考えられます。
貴重なリソースを判断する
ネットの世界は無限に広がっており(リソースがフリーであるため)、雑誌の広告枠のように有限な制限ができません。そのため何が貴重であるか、逆に無価値(無駄という訳ではなく無償化せざるを得ないか)であるかを適切に判断する必要があります。自社のビジネスモデルにおいて貴重である(または強みである)と考えられる部分が見つかれば、それ以外は全て無償化してしまうことだって可能です。無償化されたリソースを呼び水として、貴重なリソースを提供できるようになります。
無駄から生まれるもの
現代において最も貴重なリソースは時間になります。逆に最も潤沢なリソースはネットワークやサーバ、HDD/CPUなどになります。そのため、どれだけ凝ったサービスであっても時間を食いつぶすものはユーザが使い始めるのは拒否する傾向があります。最近ですとGoogle Waveもその一つです。キラーアプリケーションが存在しないために、利用者が思ったほど伸びていません。前評判が沈んでいる状態では一般公開後も怪しいものになります。とは言えチャレンジは必要です。潤沢なリソースを活かしつつ、システムやデザインに多少の時間を費やし、ユーザにその真価を問う必要があります。そうした無駄な動きを積み重ねた結果、きらりと光るものが見つかるかも知れません。対して自社でコンテンツを提供するサービスというのは継続的な費用対効果が悪い傾向があるため、テストで試すのはお勧めできません。できればコンテンツも外部に委託し、予算内で試してみるのが良いと思われます。
Appleはジョブズ復帰後、成功ばかり収めているように感じられますが実際には失敗したプロダクトも多数存在します。Googleも同様に開発後日の目を見なかったプロジェクトや、ラボで終わっているもの、サービスを停止したものなど多数存在します。それらも全て失敗の結晶であり、そこから何かを学んでいるはずです。ただ彼らは企業の掲げるビジョンは一つであり、そのビジョンに即したプロジェクトしか行っていません。ただ闇雲に手を出すのではなく、自分たちの理念や信条にあったものについてテストし、その結果がどうであれまずは試すという精神が重要ではないでしょうか。
まとめ
フリーを読んでみて分かるのは、最も重要なのは「ビジネスモデル」であるということです。フリーの経済圏はいくら否定しても無駄であり、既に存在しているものです。それを前提として、どうすれば自社のビジネスに活かせるか、またはそこから収益をあげられるかをきちんと考える必要が出てきています。特に怖いのは、自社が収益をあげているモデルに対して他社が別なビジネスモデルを構築することで無料化してしまったり、低価格化してしまった場合です。そこから他社の模倣をしても遅く、かつ転換には非常に時間を要するはずです(Googleがオンラインメールサービスを破壊したとき、他社が逆に検索ビジネスを破壊できなかったように)。そうなる前に自社の強みは何であるか、そこから水平または垂直に展開した時にどの市場が狙えるのかを考えるのが重要です。既存ビジネスの拡大も必要ですが、フリーへの対応手段としては拡大よりも視点の変換が有効に思えます。
# 2010年01月04日。ジョブズの暫定CEO就任の年を修正。
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拝見しております。ジョブズが暫定CEOになったのは、1997年だと思います。
こ、これは失礼しました…。思いっきりミスしていますね。修正します!